一つの物語(はじまりのとき)

 一つの物語をつくろうと思います。
どのくらいの時間が必要になるかわかりませんが、とにかくはじめてみることにします。
物語には主人公がつきものなので、この物語の主人公はあなたと言いたいところですが、ここでは「明(あきら)」としておきます。


 ・・・ずっと後になってから、多くの事実を知ることになるのですが、明が物心ついたときには、好きな時に寝起きし、好きなものを食べ、好きな衣服を身に着け、好きなところへ出かけ、好きな事をして日々を過ごしていました。

いつの頃からか、明の傍らにはペットがいました。明は彼女に悪戯をしたり、意に沿わないと虐めたりもしました。 彼女の死は、明に何の疑問も残さずに、ただ死の事実を示しただけでした、その時は。

成長した明は、学舎に通う道すがら、ふっと「人とは何だろう?」という疑問に捕らわれました。 この疑問は、後に「自分は一体何ものなんだろう?」といったものに変わっていきます。

全能感、それはすべての物事が自分の手のひらの上にあると感じること。 一つでも否定されれば、否定したものを排除しようとする心の動き。 それは、成長と共に対象喪失を通じて失われていくはずのものですが…

 社会に出た後、明は仕事や日常の煩事に追われる生活を送っていました。 仕事は嫌いではありませんでしたが、どちらかと言えばワーキングプアの部類で、将来に不安がないと言う状態とは無縁でした。

 さて、話を少し戻しましょう。
明が不自由を感じない生活を送る事ができたのは、勿論両親の加護があったからで、明が成人を迎えたときにそれは消滅し、遅かれ早かれ「社会の荒波」に遭遇することになります。もっとも、この荒波にどのように対峙するかは人様々でしょう。

 話を進めると、明が「社会」というものに疑問を持ち始めたのは、「社会」に出てからそれ程年月が過ぎていない頃でした。 元々、人とは何だろう、その存在する意味とは何だろう、といった疑問を持っていたので、必然的に「社会」という概念と「人とは?」という疑問が繋がったのでしょう。

この繋がり(リンク)は、後に様々な物事との間に複雑な網の構造物(ネットワーク)を作り上げることになるのですが、それはさておき、その時明の目の前に突きつけられた事実は、彼を絶望へと導くことになるのです。

明の目の前に突き付けられた事実。 それは、明が生まれ育ったこの社会は、大型船の上に築き上げられた架空の空間(ヴァーチャルスペース)であるということでした。

今まで、人生の様々な分岐点で迷いはしましたが、常に選択は自らの意思で行い、その結果については後悔しないと言う信念を持っていたつもりの明でした。 しかし、その事も結局は用意されていた筋書(シナリオ)の一つであり、目に見えない何者かの手のひらの上で転がされていたに過ぎませんでした。

大型船の行先は? その目的は? 自分はこれから一体何をすれば良いのだろうか?

大地は揺るぎないもの、大空は限りないもの。 しかし今となっては、それらは幻想に過ぎませんでした。

あれ以来、明は可能な限り大型船の事を知ろうとして、あちらこちらを飛び回りました。 その結果、大型船の進む先は未だ謎でしたが、その目的の一つは、大型船を維持するための資源を得る事でした。 驚いたことに、大型船の内部では、それを維持するための資源を、何一つ用意することはできなかったのです。


 さて、この物語では、この先明が選ぶ選択肢の結果として、少なくとも2つの展開が考えられます。 物語の意義について考えてみたとき、筋書はどちらの方向に向かえば良いのでしょうか?

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